おやつの先生

開店前に、『珈琲屋たなか』の奥さんにおやつの作り方を教わった。


奥さんは、滋賀の紀伊國屋で働いていたパティシエさんだ。
彼女の作るスイーツは手間を惜しまない正統派。
しかも、原料もこだわっていらっしゃる。


ケーキでも、なんでも作品には人柄がでるのかもしれない。
優しくてどこかしら温かみがある。でも、きちんと美味しい。

普段はふわっとした雰囲気の彼女。
でも、ひとたび厨房に入るとまなざしが変わる。


おやつ作りを習っていて、よく彼女の手の動きに見とれていた。
手が、道具の一部のようなのだ。
無駄な動きがなく、すべるように。
ヘラと一体化しているような。

そのイメージをいつも、アタマに思い浮かべながらおやつを仕込む。

なんだかしっくりこなかったシフォンも、彼女のおかげで大好きになった。
特に、大嫌いだったメレンゲを泡立てるのが、いまでは楽しくて仕方ない。

彼女からは、多くのことを学んだ。
作り方だけではなく、彼女の動作を通じて、素材と向き合うこととか、お店をしていくことに関わるエトセトラ。


だから、私にとっては、マスター同様、先生でもある。


開店祝いに彼女が愛用しているスパテラと同じものを頂いた。

なんだか、それを握ると安心する。

彼女の声を思い出しながら、今日もそのスパテラで、シフォンを焼く。