サヴタージ。

或る日。


思いたち、家具屋に出掛ける。

ぼんやり腰掛けて、本が読める椅子。
もし買うなら行ってみたいと思っていた憧れの家具屋さん。


「ああ、ここかなあ」
角を曲がろうとしたら

「こんにちは、カフェですか?ちょっと今、お待たせをしています」
ガードマンさん風な女性が一息に声をかけてきた。


「え?カフェ?…いや…、椅子を見に…」


「あ、ではこちらからどうぞ」


まさかのガードマンさん登場。


ふと横を見やる。
カフェは満席で沢山のヒトが並んでいる。


「ふーん。カフェもしてるのかあ…」
ちょっと、どきまぎしてお店に入る。


いくつか試してから、何気に店員さんに聞いてみる。
素材も作りも良いのだが、値段はちょっと高めに感じた。


「お買い求めですと、モノにもよりますが2、3ヶ月待ちです」
おしゃれな男性スタッフがサクッと応える。


気が遠のいた。


「私、それまで生きてるかなあ」


今までの買い物では、そんな風には思ったことなどなかった。
愛用中の靴は注文後、一年してから届いたくらいだのに。


違う。


違うなあ。
この小骨のつっかえた感触は、そんなこととは違うんだ。


おしゃれな男性スタッフはそれ以上は何も言わずに、自分の仕事に戻る。
発注作業で忙しいようだ。


「どうもお邪魔しました」


ぼんやり歩いて、帰りしなたまにのぞく雑貨屋さんへ。
そして、ふらりと隣のアンティーク家具屋に寄った。


いつも気にはなっていたのだけど、なんか入れないままだった。
その日はスーッと入っていった。


そこにはシンプルな椅子。
一見、何の変哲もない感じなんだけど


きれいだなあと思った。


店員さんに声かけして腰掛けた。


まあ…。


うっとりした私に店員さんが話す。


昨日入荷してきたという、古いウェグナーのだそうだ。
ゲタマ社の昔のスプリングのタイプ。
ちょうど、デンマークの家庭から二脚出たそうだ。


手すりは飴色で、傷もまたいい感触。


二脚とも大事に使われていたみたいだ。


「どんな人が使ってたんだろう」


今、手許にあるアンティークに出会った時、決まってそういうことを感じた。


「これは呼ばれたなあ…」ぼんやり感じた。


気づいたら、店員さんも一生懸命に二脚を迷っている。
2人で座り比べをしたり、明るい所へ出してみたり。
まるで自分の買い物みたく真剣だ。


そうして、一つを決めた。


手続き中に気づいたお店の名前に、手が止まる。


私のお気に入りの棚を求めた店だった。


その棚はイギリスの古いもの。


もう10年以上前に、当時暮らした人が私に買ってくれた。


私は看護学生で、彼はまだ社会人二年目。
古い木造アパートの神田川みたいな暮らしだった。


その家具屋さんは当時奈良にあって、たまに訪れた地ビール屋さんの並びにあった。


その日も2人して地ビールを飲み、ふらりと立ち寄った。


可愛らしいブルーグレーの花を掘ってある棚。
私は珍しく離れられなくなってしまった。


そんな私にボーナスをはたいて彼が買ってくれたのだった。


その家具屋さんは地ビール屋さんと同じく、いつのまにかその場所からなくなった。


彼とも私の大愚で離れてしまった。


「はあ、そうでしたかあ。あの家具屋さん…」


ちょっと目頭があつうなった。


再び、ちょっと気が遠のいた。


JA-BOSSA

JA-BOSSA

その日、雨宿りでふらりと入った古本屋にて。
秩父タクシードライバーさんだそうだ。


なんなんじゃ、この声は!


こう、何ていうか
何がどうなれば、こうなるんだろうか。


それにしても、タクシーサヴタージって。


イムリーすぎるなあ。