灯台もと暗し。

以前、台湾のジウフェンを旅をした。時雨れてきたので、民家の軒先で雨宿りさせてもらった。

家の奥からいい香りがするなあと、何気に振り返ると、おじいさんが手招きをしていた。
小津映画にでてきそうなおじいさんだった。

言葉はわからないが、今からお茶を飲むところだったからあんたもどうだ、ということらしい。招かれるままに、ビニールの座面が破れたスツールに座った。台湾の人は本当にフツウにこうして日に何度もお茶を楽しんでいる。

口にしたお茶はウーロン茶ではなく、紅茶だった。初めて飲んだ味だった。ダージリンとかウバとかそんな味ではなく、日本茶に近いような味。抽出した茶葉もお番茶のような大きさだ。なんだこれは…

おじいさんはそんな私の表情をみて、にっこりとした。うまかろ?みたいにうなづいて、紙片になにやら書いている。
「魚地」とある。

以降、インドやスリランカの高級といわれる紅茶を飲む機会があったが、何か物足りなかった。あの味が鮮烈に私の舌に記憶を残してしまったから。

えぜこを開くにあたり、悩んだのが紅茶だった。使うならあの茶葉がいい。

そんななか、偶然、インターネットで出会ったのが永谷さんのお茶だった(HPあります)。無農薬で手作業でやっているということにも興味をもち、早速注文をした。

封を開けてみると、茶葉が大きい。しかも、あの懐かしい香りがする。
どきどきして口にしたら、あのおじいさんの顔が一気によみがえった。なんと、恋焦がれた味は宇治田原にあったのだった。

ストレートはもちろんだが、ミルクでのむのもおいしい。とても、丁寧な仕事をされている茶葉だ。

めでたく、えぜこの紅茶の茶葉が決定した。